レポ市場・債券貸借市場 | 短期金融市場入門

レポ市場・債券貸借市場

発足して短期金融市場最大の取引残高へ

レポ取引とは…

  • 現金を担保に証券を貸し借りする取引
  • 証券貸借取引のひとつ
  • 債券の銘柄を特定するSCレポ取引と銘柄を特定しないGCレポ取引がある。

1.債券貸借取引(レポ取引)の解禁へ

■ レポ取引の位置づけ
レポ取引は債券貸借取引のひとつ。

レポ取引とは,現金担保つき債券貸借取引のことである。債券貸借取引が登場した背景には,世界的な金融自由化の流れ[1]と,それを受けて日本でも債券の空売りを求める声が高まったことがあげられる。空売りといえば買現先が必要となるわけだが,現先取引には有価証券取引税がかかってしまうという問題があった。そこで政府は「債券貸借取引」を認めることでこれを解決した(1989年)。売買取引でなければ有価証券取引税はかからない。これによって名実ともに債券を貸し借りする市場が誕生することとなった(債券貸借市場,広義のレポ市場)。

しかし前ページで説明したとおり,証券会社の買現先がなくなった主たる理由は有価証券取引税がかかるからというよりは,銀行業務とかぶるからであった(銀証分離)。そのため,債券貸借取引が認められた後も,現金を担保に取ることについては厳しく規制された(現金担保を取ると銀行業務に近づいてしまうため)[2]。こうした経緯から取引の大部分は無担保で行われることとなった。

  1. ^金融技術の発達を受けて規制が形骸化したこと以外に,日本の場合は当時円安米ドル高によってアメリカで経常赤字が問題となっていたことが背景にある。円安米ドル高の原因のひとつに,金融規制が強く使い勝手の悪い日本円が国際市場で低く評価されていることがあるとして,アメリカは日本に金融の自由化を迫った(日米円ドル委員会)。
  2. ^現金を担保に取る場合,その金利には厳しい制限が課せられた。現金担保につく金利の上限は有担保コール翌日物金利 – 1%とされた。また,担保となる現金は対象債券の時価の105%以上を差し出さなくてはならなかった。

2.市場整備:現金担保付貸借取引へ

■ ベアリングス銀行
1995年にデリバティブ取引で多額の損失を出し,破綻。かつては「女王陛下の銀行」と呼ばれたイギリスの名門銀行であったが,オランダのINGグループに吸収された。

債券貸借取引は有価証券取引税がかからないということで現先市場からの資金シフトを促した。しかし,無担保の貸借取引は1995年のベアリングス銀行破綻[1]でその危険性が認識されることとなる[2]。ベアリングス銀行はイギリスの銀行だが,その系列証券会社が日本で債券貸借取引を行っており,その証券会社に貸し出した債券が戻ってこなくなるのではないかという懸念が強まった。

その後,ベアリングス銀行はオランダの金融機関によって救済合併されたため,そうした被害が表面化することはなかったが,こうした信用リスクを軽減するための市場整備が進められることとなり,現金担保規制は撤廃されることとなった[3]。以降,現金担保付き債券貸借市場(狭義のレポ市場)が拡大していくことになる。

  1. ^シンガポール支店のたったひとりのトレーダーによるデリバティブ取引の失敗で破綻した。当時,日経平均株価が大きく変動しないことを予想してデリバティブのポジションを組んだが,1995年1月17日に阪神・淡路大震災が起こると株価は急激に変動し,最終的にはベアリングス銀行の自己資本を遥かに上回る損失を計上することとなった。
  2. ^現在,銀行破綻に関するリスクは強く認識されているが,当時はそうしたリスクがほとんど意識されていなかった。日本で戦後はじめての銀行破綻は1995年8月の兵庫銀行であり,ベアリングス銀行破綻の後である。
  3. ^1995年9月の緊急経済対策で現金担保規制の撤廃が盛り込まれた。

3.SCレポとGCレポ

レポ取引にはSCレポ取引(スペシャル取引)とGCレポ取引(ジェネラル取引)がある[1]

  • SCレポ取引:銘柄を特定する(空売りを目的とした場合が多い)
  • GCレポ取引:銘柄を特定しない(資金調達を目的とした場合が多い)
■ GCレポとSCレポの取引残高
2018年末時点。
出所:日本銀行

空売りなどを目的としている場合はSCレポ取引で債券を調達する。SCレポ取引における証券の需給状況はその銘柄ごとに異なるため,一部の品薄の銘柄だけが極端高い賃借料をつけられているようなこともある。これに対してGCレポ取引は銘柄を特定しない。資金調達を目的としている場合などに用いられる。単にお金を借りたいだけなのにところで担保にするならどの銘柄がいいですかなどというやり取りをするのは面倒くさい。GCレポの金利はSCレポのような銘柄需給の影響を受けないため,より一般的なレポ取引の金利として認識される。報道等で単に「レポレート」[2]と出てきた場合は,GCレポの金利を指している。

  1. ^SCはSpecial Collateral,GCはGeneral Collateralの略。
  2. ^「レポレート = 担保につく金利 - 債券の賃借料」で計算される。上記にあるよう,SCレポ取引の方が債券を借りる際の賃借料を高くとられる場合が多く,レポレートは低い場合が多い。
◀◀ 現先取引のはじまり