1.短期金融市場は経済の生命線
短期金融市場は短期間のお金を取引する場でマネーマーケットとも呼ばれる。ここでいう短期間とは満期が1年以内という意味であり,株のデイトレードなどは短期金融市場に含まれない。一方,1年超の資金が取引される場は長期金融市場と呼ばれる。
市場 | 別名 | 期間 | 具体例 |
---|---|---|---|
短期金融市場 | マネーマーケット | 1年未満 | コール市場,レポ市場など |
長期金融市場 | キャピタルマーケット 資本市場 | 1年超 | 株式市場,債券市場など |
債券市場は長期金融市場としているが,満期が1年以内の債券はどうなんだ
と思う人がいるかもしれない。満期が1年以内で発行される債券については短期金融市場に分類される[1]。ちなみに,単に短期金利と言われた場合は『無担保コール翌日物金利』(コール市場の金利)を,長期金利と言われた場合は『10年国債利回り』を指すことが多い[2]。
- 短期金利 ≒ 無担保コール翌日物金利
- 長期金利 ≒ 10年国債利回り
金融市場を短期と長期に分けて考える理由はそれぞれの性格の違いに求められる。一般に『資産運用』『証券投資』という言葉が使われるのは長期金融市場においてだ。たとえば株に投資するのであればこの会社は長期的に利益を上げられるだろうか
どの銘柄をどういう比率で組み合わせたらよいだろうか
といったことが話題になる。
出所:日本銀行
一方,短期金融市場は長期金融市場と比べれば地味な存在であり,面白みに欠ける。来週返すんで,ちょっくらお金貸してください
といった,いわば普段の資金繰り(つなぎ資金)の話がメインである。しかし逆に言えば,短期金融市場は経済インフラとして重要な位置を占めることになる。なぜなら「短期金融市場が機能しない」ということは「日々の資金繰りがショートしてしまう」ということと同義だからだ。たとえば2008年のリーマンショック[3]が深刻な問題となった背景には,それが株式市場の暴落にとどまらず,短期金融市場の動揺をも招いたことがあげられる。短期金融市場は経済の生命線であるほか,金融政策とも密接に関連しているため,金融関連の資格のテキストなどでは必ずと言っていいほどふれられている。
個人投資家などが資産運用を行う場合,短期金融市場それ自体が取引の対象となることはほぼあり得ない。しかし,資産運用を行う上では短期金融市場の動きは重要である。なぜなら,後述するように,短期金融市場の変動は長期金融市場へと波及するからだ。そのため,金融機関にいるファンドマネージャー(特に債券や為替担当)は必ず短期金融市場の動きにも気を配っている。
- ^たとえば短期国債(国庫短期証券)市場や短期社債(CP)市場は短期金融市場である。したがって,長期金融市場に該当する債券市場は,厳密には「1年超の債券市場」ということになる。
- ^債券運用において長期債とは7~10年を指す。一方,日本では20年債,30年債,40年債の国債などが発行されているが,これら10年超の債券は超長期債と呼ばれる。したがって,10年超の金利は超長期金利と呼ばれる。
- ^2008年9月15日にアメリカ大手投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻,およびその前後の金融危機の総称。世界中の短期金融市場の流動性を逼迫させ,世界経済を急激に失速させた。