1.コール市場は重要と言われるが…
出所:日本銀行,日本証券業協会
株式市場と比べれば,コール市場は多くの人にとってなじみがない(金融機関しか参加できず,取引額も最低5億円からなので当たり前だが)。それでも『コール市場』という言葉はニュースでたまに取り上げられるし,高校の政治経済の教科書にも『無担保コール翌日物金利』[1]なんて言葉が出てくる。漠然となんか知らんが重要なのだろう
と思っている人も多いのではないか。金融関係の本ではコール市場は短期金融市場の代表的な市場で…
などと書いてあるが,何がどう代表的なのかはあまり説明されていない。特にこういう書き方をされるとコール市場が短期金融市場の中で一番規模が大きいんでしょ?
と思うかもしれないが,実は取引額もあまり大きくない。
- 金融市場の分類(短期金融市場の概観)
- 短期金融市場はなぜ縮小したのか
出所:オーストラリア準備銀行
ではいったいなぜ重要なのか。最大の理由は金融政策と密接に関わるからである。日本銀行(日銀)の『通常の金融政策』ではコール市場の金利(無担保コール翌日物金利)の誘導を目標としている。
金融政策の影響は絶大で,株,債券,為替,その他あらゆる金融市場を動かす材料になる。たとえば,図は2015年2月3日のオーストラリアドル(豪ドル)の推移だが,この日オーストラリアの中央銀行はコントロール対象の金利を「今よりも低くする(政策金利を引き下げる)」と発表した。その直後,豪ドルはガッツリ下落。豪ドルを持っていた投資家は一日で大損だ。金融政策の変更は重要なイベントであるため,金融機関の運用担当者(特に債券・為替)で中央銀行の動向を見ていない人はいない。
- 金利を動かすとどうなるのか(金融政策の影響)
出所:日本銀行
コール市場の話をしているんだから日本の金融市場の例を出さんかい
と思ったかもしれないが,残念ながら2013年以降,日銀はコール金利をコントロールの対象にしておらず,前述のオーストラリアのように政策金利の上げ下げを受けて市場が動いている状況にはない。現在の日本の金融政策は『通常の金融政策』ではなく,『特殊な金融政策』となっている[2]。したがって,コール市場が重要な理由は『通常の金融政策』を知るうえで欠かすことができないからということになるだろう。
- ^コール市場で「今日借りて明日返す」取引に適用される金利。取引時の担保はなし。無担保コールO/N(オーバーナイト)金利と記述されることもある。
- ^一般に「非伝統的金融政策」と呼ばれる。量的緩和政策やマイナス金利政策などがこれにあたる。