コール市場 | 短期金融市場入門

コール市場

短期金融市場の中核

コール市場とは…

  • インターバンク市場のひとつ
  • 金融機関が短期の資金を貸し借りする市場

1.コール市場は重要と言われるが…

■ 短期金融市場の規模
2017年末時点。コール市場の残高は8.1兆円。
出所:日本銀行,日本証券業協会

株式市場と比べれば,コール市場は多くの人にとってなじみがない(金融機関しか参加できず,取引額も最低5億円からなので当たり前だが)。それでも『コール市場』という言葉はニュースでたまに取り上げられるし,高校の政治経済の教科書にも『無担保コール翌日物金利』[1]なんて言葉が出てくる。漠然となんか知らんが重要なのだろうと思っている人も多いのではないか。金融関係の本ではコール市場は短期金融市場の代表的な市場で…などと書いてあるが,何がどう代表的なのかはあまり説明されていない。特にこういう書き方をされるとコール市場が短期金融市場の中で一番規模が大きいんでしょ?と思うかもしれないが,実は取引額もあまり大きくない。

■ 政策金利変更時のオーストラリアドル
2015年2月3日の政策金利変更時(現地時間)。
出所:オーストラリア準備銀行

ではいったいなぜ重要なのか。最大の理由は金融政策と密接に関わるからである。日本銀行(日銀)の『通常の金融政策』ではコール市場の金利(無担保コール翌日物金利)の誘導を目標としている。

金融政策の影響は絶大で,株,債券,為替,その他あらゆる金融市場を動かす材料になる。たとえば,図は2015年2月3日のオーストラリアドル(豪ドル)の推移だが,この日オーストラリアの中央銀行はコントロール対象の金利を「今よりも低くする(政策金利を引き下げる)」と発表した。その直後,豪ドルはガッツリ下落。豪ドルを持っていた投資家は一日で大損だ。金融政策の変更は重要なイベントであるため,金融機関の運用担当者(特に債券・為替)で中央銀行の動向を見ていない人はいない

■ 政策金利とコール市場
2018年12月末時点。無担保コール翌日物金利。網掛けの部分は量的緩和実施時期。点線はマイナス金利政策実施時の日銀当座預金金利。
出所:日本銀行

コール市場の話をしているんだから日本の金融市場の例を出さんかいと思ったかもしれないが,残念ながら2013年以降,日銀はコール金利をコントロールの対象にしておらず,前述のオーストラリアのように政策金利の上げ下げを受けて市場が動いている状況にはない。現在の日本の金融政策は『通常の金融政策』ではなく,『特殊な金融政策』となっている[2]。したがって,コール市場が重要な理由は『通常の金融政策』を知るうえで欠かすことができないからということになるだろう。

  1. ^コール市場で「今日借りて明日返す」取引に適用される金利。取引時の担保はなし。無担保コールO/N(オーバーナイト)金利と記述されることもある。
  2. ^一般に「非伝統的金融政策」と呼ばれる。量的緩和政策やマイナス金利政策などがこれにあたる。

2.コール取引はなぜ必要になるのか

コール市場は金融機関の資金過不足を調整する場といわれるが,資金過不足を調整するコール取引はたとえば次のような場合に発生する。

とあるおじさんがキャバ嬢に1,000万円振り込むとしよう。このとき,おじさんもキャバ嬢も同じ銀行を使っていれば話は簡単だ。銀行がおじさんの口座からキャバ嬢の口座に1,000万円移し替えればよい。しかし,おじさんとキャバ嬢が違う銀行を使っている場合は以下のような資金の流れになる。

■ 銀行間で資金過不足が生じる仕組み
  1. おじさんがA銀行にある口座で振込の操作をする。
  2. おじさんの操作を受け,A銀行は日銀内にある当座預金口座でB銀行の当座預金口座へと送金。
  3. 日銀の当座預金システム(日銀ネット)でA銀行の口座に-1,000万円,B銀行の口座に+1,000万円との処理が行われる。
  4. B銀行はキャバ嬢の口座に1,000万円を入金。無事おじさんからキャバ嬢に1,000万円が振り込まれる。

A銀行もB銀行も至極まっとうに銀行業務を行っている。それでも日銀当座預金には

  • A銀行:-1,000万円
  • B銀行:+1,000万円

という資金過不足が生じることになる。日々膨大な取引を行う銀行にとって,こうした過不足は問題だ[1]。もしA銀行が日銀当座預金が不足していてB銀行に送金できませんでしたなどとなれば,信用はガタ落ち。おそらくA銀行は破綻するだろう[2]

■ 資金過不足調整のイメージ
A銀行はコール市場で資金調達。B銀行はコール市場で資金運用。

そういう事態を避けるため,通常であればA銀行は不足している資金を他の銀行から借りてくる(=コール市場で調達する)。一方,B銀行は資金が一時的に余っているため,余剰分をコール市場で運用する。

B銀行は余ったそのお金で融資をしたり,証券に投資したりすればよいではないかと思うかもしれないが,振込による資金過不足など1日で解消することもめずらしくない。1日だけの余剰資金でたとえば期間5年の融資を実行したとしたら,おそらく翌日には大惨事になっているだろう。そのため,こういった一時的な余剰資金は通常,短期のコール市場などで運用される。

  1. ^実際には1,000万円程度の資金過不足で問題が生じることはない。しかし,多額の企業決済などを扱うメガバンクなどでは1日当たりの取引残高が平均30兆円程度となっており,日々資金過不足の調整に追われている。
  2. ^銀行は準備預金制度により,一定以上の準備預金を日銀の当座預金口座に入れておかなければならない。したがって,口座がゼロになる前に準備預金不足のペナルティを日銀に支払うことになる。もっとも,準備預金すら調達できない銀行となれば,文中にあるよう,破綻したも同然である。