CP市場 | 短期金融市場入門

CP市場

企業の多様な資金調達を支える仕組み

CP(コマーシャルペーパー)とは…

  • 大企業が発行する借用証書のようなもの
  • オープン市場から資金を調達する

1.企業が投資家から資金を集めるCP

■ CPの発行残高
2018年11月末時点。手形CPと電子CPの合計。
出所:日本証券業協会

CP(コマーシャルペーパー)は大企業が発行する短期の資金を調達するための借用証書のようなもので,法律上は短期社債として扱われる[1]。本質的には約束手形と同じだ。ただし,手形は基本的に銀行で換金してもらうが,CPは広く様々な投資家から資金を集める仕組みになっている。そのため,手形が銀行を経由してインターバンク市場で取引されるのに対し,CPはオープン市場で取引されることになる。

■ CP保有者の構造
2001年の量的緩和導入以降,金利が大きく低下したため,投資信託や保険会社がCPで資金を運用するようになった。また,2010年以降は日本銀行が継続的にCPを買い入れるようになった。
出所:日本銀行

もっとも,日本において発行されたCPの大部分はメガバンク(都市銀行)によって買い取られている(CP引受[2]。もちろんCPを買い取った銀行がほかの投資家に売りさばけば広く様々な投資家から資金を集めるといえるかもしれないが,近年は銀行や投資信託がそのまま誰にも売らずに持ち続けるケースも増えてきている[3]

しかしそうなると,いよいよ手形と何が違うのかという話になる(手形を発行し,それを銀行に差し入れて資金を調達する手形貸付[4]とほとんど変わらない)。これならみんな手形なんかやめてCPにすればいいじゃないか,また逆に手形の市場を整備して銀行以外にも換金してもらえるようにすれば(つまり手形をオープン市場にすれば),CPなんかいらないじゃないかと思う人もいるかもしれない。しかし後述するように,インターバンク市場の手形とオープン市場のCPに分かれているのにはそれなりの理由が存在する。

  1. ^厳密には短期社債として扱われるもののほか,手形として扱われるものもある(手形CP)。しかし,後者は現在ほとんど存在していない。
  2. ^CP引受は大手銀行が大部分を占めており,発行額の8~9割は都銀が引き受けている。
  3. ^発行されるCPの多くを銀行が保有しているという構図は日本特有のものである。米国では商業銀行の保有するCPは発行量の1%程度しかない。
  4. ^手形貸付は手形を担保に差し入れて,銀行から資金を借りる取引。1年以内の短期の資金調達に利用されることや,その目的がつなぎ資金などであることなど,短期金融市場での取引と共通する点が多い。しかし手形貸付自体はあくまで銀行融資であり,市場を介した金融取引ではないため,短期金融市場には分類されない。

2.CP vs 手形:情報開示の問題

■ CP発行企業数
2016年度末時点。
出所:証券保管振替機構

CPについてはよく信用力のある優良な企業が発行するという説明がなされる。かつてはCPを発行できる企業に厳格な基準が存在したが[1],現在では大部分が緩和されている[2]。それでもCPが無担保で発行される[3]以上,その企業の規模や格付は重要な意味を持つ。誰も名前の聞いたことのないような会社がバカスカCPを発行しまくっていたらあの会社はなにか資金繰りが危ない怪しい会社なんじゃないかと思って,誰もお金を貸そうとはしないだろう。CPに限らずオープン市場で資金を調達できるひとつの条件は信用があることだ。したがって,CPはそれなりに実績のあるような大企業でなければ思うように資金を集めることができない。一方,日本には全然有名じゃなくても優秀な中小企業がたくさんある。そして,そういう企業を見分ける専門機関として銀行が存在している。銀行はその企業の事業を精査し,本当にお金を貸してもいいかどうか判断する。銀行が貸しても大丈夫だと判断すれば,企業は手形貸付などで資金を調達できるようになる。

■ 直接金融
■ 間接金融
株式,債券,CPの発行は直接金融。銀行からの借入は間接金融。

実際,製造業を営む中小企業などにとって「オープン市場で資金を調達する」というのはかなりハードルが高い。広く投資家から資金を集めるためには有価証券報告書などによる情報開示が不可欠だ。しかし中小企業によっては,特許の中枢にかかわるような部分まで開示しなければならなくなって。一方,そこをブラックボックスにして資金を調達しようとすれば,それなりに高い金利を設定しないと投資家は食いついてこない。それなら最初から内部の事情を知っている銀行から融資を受けた方が割安だ。直接金融のCP(オープン市場)と間接金融の手形貸付[4]はこうした形で棲み分けがなされている。

  1. ^CP市場創設当時(1987年),発行的確企業は170社程度しかなかった(当時,金融関連企業はCP発行不可)。その中でも発行時にバックアップラインの設定や金融機関の保証が不要とされた企業はたったの40社だけである。
  2. ^1998年6月8日に大蔵省の金融関係通達が廃止されたことをもって,CPの発行に関する規制はほとんどなくなった。
  3. ^CPの条件は1年未満であることや割引債(期間中に利払いがない債券,もしくは満期の償還時にのみ利払いがある債券)であることのほか,無担保であることがあげられる。(振替法66条1号)
  4. ^企業が手形貸付のために差し入れた手形は銀行によって手形売買市場(インターバンク市場)に持ち込まれる。もっとも近年は手形貸付自体が減っているため,手形売買市場もほとんど機能していない。