伝統的金融政策の手段 | 短期金融市場入門

伝統的金融政策の手段

中央銀行はどのようにして金利を動かすのか

金利を操作する方法

  • 中央銀行が資金供給量を動かす
  • その代表的手段は公開市場操作
  • 金利を下げたい場合は,国債などを買い入れ,民間金融機関に資金を供給(買いオペ)

1.金融調節:日銀の日々の仕事

■ 資金供給による金利低下のイメージ
この図では日銀が資金供給量を完全にコントロールできると仮定している。

金融調節とは中央銀行が行う資金量の調整である。日銀は短期金融市場全体の資金過不足を日々調整することで,安定的な金融取引を支えたりコール金利を政策目標水準に誘導したりしている。

金融機関は日銀に当座預金口座を持っており,そこで振込などの金融機関同士での資金移動を処理している。それらの安定的な取引を保証するため,日銀当座預金には必ず一定量の資金を預金準備として残しておかなくてはならないと定められている(準備預金制度)。もし期間内の所要準備を維持できなければ日銀からペナルティを食らう仕組みとなっている。そこで資金不足の銀行はほかの銀行から借りてくることになる(コール取引)。

■ 振込などの資金移動
■ 銀行券要因
■ 財政等要因
通常の企業は民間銀行の口座間で決済をするが,政府だけは中央銀行にある口座を使って取引を行うため,金融機関外に資金が移動する。

振込による資金の過不足などはコール取引によって手当てすることができる。A銀行からB銀行に1億円振り込んでも,A銀行がマイナスになった分の金額がB銀行のプラスになるだけであって,金融機関全体で保有している資金量が変わるわけではない。余分に持っているB銀行が不足しているA銀行にコール市場で貸し出せば問題ない。しかし,取引によってはそうではない場合が存在する。ひとつは銀行券要因,もうひとつは財政等要因である。

銀行券要因とは銀行券(現金)の受入・引出で生じる変動である。ある人がA銀行から1億円のお金を引き出して,それを自宅で保管したとする。その場合,日銀当座預金は全体で1億円分減少する(かわりに家計の保有する現金が1億円分増加する)。

また,財政等要因は政府が資金を動かす場合に生じる変動である。政府は金融機関と同様,日銀に当座預金口座を持っている。たとえば法人税の支払いは各金融機関の日銀当座預金を通じて政府の口座へと振り込まれる。このとき政府は振り込まれた資金をコール市場でほかの金融機関に貸し出すわけではないため,市場は資金不足に陥ることになる。

以上のような形で金融機関全体が保有する資金の量が減少すると,コール市場は資金不足で金利が上昇する。これに対し,日本銀行は資金量を増やすことでコール金利の急騰を抑えることになる。こうした日本銀行による資金量の調節は金融調節と呼ばれている。

2.公開市場操作:代表的な政策手段

日銀が資金供給量を調節する代表的な手法として公開市場操作がある。コール市場のページでも述べた通り,公開市場操作は金融機関が国債や手形を保有しており,それを取引する市場が発達していなければ行うことができない。公開市場操作には様々なやり方がある。以下は実際に行われた国庫短期証券の買いオペ(短期国債オペ)の例である。

■ 国債買入の落札結果
2018年4月20日。日銀のホームページ画面。

手順は次のようになっている。

  1. まず日銀が「国債(国庫短期証券)を2,500億円買い取ります(落札総額)」と当日に金額を通告する[1]
  2. これを受けて,金融機関は国債の買取希望価格を日銀に提示する(利回較差で提示)。
  3. 日銀は安く提示された金額から順番に国債を買い入れ,2,500億になったところで買入を締め切る。

したがって,金融機関はあまりに高い価格(低い金利)を提示すると国債を買い取ってもらえない可能性がある。日銀が買い取ってくれる国債は2,500億円だけだが,上記の例では1兆2,344億円の応札があった(応札総額)。そのため,日銀の買い取りからもれた国債はおよそ1兆円程度あったということになる。

逆に安すぎる価格(高い金利)を提示すると,普通に債券市場でほかの金融機関に売るのと何が違うのかという話になってしまう。金融機関は買い取ってもらえるギリギリの高い価格(低い金利)を提示しようとするわけだが,それこそが債券ディーラーの腕の見せ所となる。

こうして,国債が銀行などから日銀に,その代金としての資金が日銀から銀行などに移動する。銀行が手にした資金をたとえばコール市場で他の銀行に貸せばコール金利は低下することになる。

  1. ^ただし,何日に通告する予定だということは事前に発表される場合もある。通告は午前が多い。

3.上限金利と下限金利

■ 上限金利と下限金利
上限金利と下限金利を設定し,コール金利がこの間で推移するようにしている。このような仕組みはコリドーシステムと呼ばれる。

コール市場のページで,資金不足の金融機関はコール市場で調達すると述べたが,実は他にも資金を調達する方法はある。それは日銀から直接借り入れるという方法だ。これは補完貸付制度ロンバート型貸出制度)と呼ばれており,基準貸付金利(現在は0.30%)で日銀から資金を借りることができる。したがって,コール金利が0.30%より高い場合は日銀から借り入れることになる。そのため,コール金利が0.30%を突き抜けて上昇することは基本的にはないとされている(上限金利)。

これと似たようなシステムは資金運用サイドにも存在する。補完当座預金制度と呼ばれ,2008年11月に設定された。日銀当座預金に預けると補完当座預金適用利率(設定当時は0.10%)の利息がつく仕組みになっている。したがって,コール金利が(当時)0.10%より低い場合は日銀当座預金に預けていた方が得になるため,コール金利が0.10%を突き抜けて低下することは基本的にはない(下限金利)。現在はマイナス金利政策がとられ,補完当座預金適用利率は▲0.10%に設定されている。日銀当座預金に入れているとお金がとられてしまうことになるため,金利がゼロを下回るような水準でもコール市場で貸出に回される事態となった。

■ ECBのコリドーシステム
2018年12月末時点。ECB(欧州中央銀行)は2014年にマイナス金利を導入したため,下限金利がゼロを下回っている。
出所:ECB(欧州中央銀行)
■ 日銀のコリドーシステム
2018年12月末時点。一般に提示されているコール金利は各コール取引の平均金利である。
出所:日本銀行

上限金利と下限金利を定めることで政策金利を安定させる手法は多くの国で採用されている。政策金利は両金利の間を推移することになるため,こうした仕組みはコリドー(回廊)システムと呼ばれる。

しかしながら,ときには政策金利がコリドーをはみ出すこともある。日本ではリーマンショック直後にコール金利の最高値が上限金利を上回った。その理由は金融機関が風評被害を懸念したためと考えられる。金融危機のなか日銀に借り入れを申し出たとなればあの金融機関はコール市場で資金を調達できないほど危ないのではないかと思われかねない。そのため,少々高い金利で借りることになっても市場で資金を調達した方がいいと考えた金融機関が多かったのではないかとみられている。

またリーマンショック後,コール金利の最低値は恒常的に下限金利を下回っている。その理由はコール市場には参加しているが,日銀当座預金を持っていないという金融機関が存在するためである。具体的には保険会社投資信託などだ。保険会社などは補完当座預金制度の対象とはならないため,制度が始まった当初から0.10%を下回る金利で運用せざるを得なかった。現在もコール金利は▲0.10%を下回って推移している。

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