コール市場と金融政策 | 短期金融市場入門

コール市場と金融政策

通常の金融政策はコール金利の誘導によって行われる

コール金利と金融政策の関係

  • 資金供給量を増やすとコール金利は低下する
  • 資金供給量を減らすとコール金利は上昇する
  • 日銀は資金供給量を調整することで(金融調節),コール金利を操作しようとする

1.コール市場と日銀の金融調節

■ 資金需要増加による金利上昇
お金を借りたい人が増えれば,限られた資金を奪い合うことになるため,金利は上昇する。

資金不足の金融機関はコール市場で資金を調達してくることになる。しかし,資金を供給してくれる金融機関が少なければ,

  • 資金需要 > 資金供給

となり,コール金利は上昇していくことになる。こうした金利変動は日々の円滑な金融取引に支障をきたす可能性がある。そこで日本銀行(日銀)は市場に資金を供給して金融機関の資金不足に対応する。結果としてコール金利は低下し,目標水準まで誘導される。こうした日銀による日々の短期金融市場のメンテナンスは金融調節と呼ばれる。

この金融調節の方法だが,日銀が毎回資金不足の金融機関にほら,コール市場で調達できなかった資金貸してあげるから,これを使いなさいと直接渡しているわけではない。もちろんこういった直接的な方法がとられることもある(むしろ,こうした金融調節がメインの時代もあった[1])。しかし現在,このやり方はあまりスマートではないということで,間接的な資金供給による操作が主流となっている。具体的には公開市場操作(売りオペ・買いオペ)と呼ばれる政策手段である。

  1. ^公定歩合操作と呼ばれ,1994年までは民間銀行金利をこれと連動させるような規制が存在した。金利自由化後,金利操作の手段は公開市場操作へと移っていくことになる。

2.公開市場操作とは

■ 資金供給増加による金利低下
市場に出回る資金が増えれば金利は低下し,お金は借りやすくなる。

公開市場操作は中学・高校の公民の教科書でも目にする。そこには,たとえば買いオペについて,「中央銀行が市中銀行から『国債』などを買い取り,その代金として市中に資金を供給する」といった説明がなされている。これをみてなんで銀行が国債を持っているんだ,どっから国債がわいてきたと思う人もいるかもしれない。そもそも公開市場操作という政策手段は金融機関がある程度の国債を保有していることが大前提なのである。したがって,債券市場の発達していない発展途上国などでは行うことができない[1]

■ 金融調節のイメージ
日銀は国債の売買を通じて資金を供給したり,吸い上げたりする(金融調節)。銀行はそれに合わせてコール市場に流す資金量を調整する。

買いオペでは日銀が金融機関から国債を買い取って代金を支払うことになる(金融機関に資金が供給される)。このとき,国債を買い取ってもらいたい金融機関は日銀のオペに応じるわけだが,それが必ずしも資金不足で困っている金融機関であるとは限らない。それでは本当にお金が必要だった金融機関に資金が供給されていないではないかと思うかもしれないが,もし資金不足ではない金融機関が日銀に国債を売却したとしたらどうなるだろうか。おそらく,その余剰資金をコール市場で運用しようとするだろう。そうなるとコール市場に資金が供給され,コール金利に低下圧力がかかる。そうやって日銀は目標水準まで金利を引き下げているのだ。

  1. ^たとえば,中国では公開市場操作などの手段が段階的に整備されている(特に1997年のアジア通貨危機以降)。しかし,市場中心の政策に切り替えていっているものの,依然として窓口指導や貸出総量規制といった政策手段が重要な位置を占めている。

3.補完貸付制度とは

■ 上限金利としての基準貸付利率
出所:日本銀行

前述したとおり,日銀が資金を直接貸し付けるという方法もなくはない。この制度は補完貸付制度(ロンバート型貸出制度)と呼ばれており,資金不足の金融機関が日本銀行から直接資金を借り受ける。このとき適用される金利は基準貸付利率と呼ばれるが,かつては公定歩合と呼ばれ,これを上げ下げすることが長らく金融政策のメインであった。

現在の基準貸付利率は0.30%である。もしコール金利が0.30%より高ければ,金融機関は補完貸付制度を利用して日銀から直接借りた方が得になる。したがって,コール金利が0.30%を突き抜けて推移することは基本的にはない[1]。基準貸付利率は実質的なコール金利の上限となっている。

  1. ^実際にはコール金利が基準貸付金利を上回ることがある。日銀から直接借りることで「市場で資金を調達できないほど危ない金融機関」という風評被害が立つのを避けるため,金利が高くてもコール市場で調達するような場合がそれにあたる。
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