新現先取引の整備 | 短期金融市場入門

新現先取引の整備

現先取引とレポ取引の統合,国際化へ

新現先取引とは…

  • 海外のレポ取引に合わせた取引
  • 実態として同じ取引であるレポと現先を統合

1.新現先取引:市場整備後の現先取引

■ レポと現先の関係
旧現先にリスクコントロール条項などが加わったものが新現先。

新現先取引は海外のレポ取引に合わせたもので『現先レポ』と呼ばれる場合もある。現在,単に『現先取引』といった場合はこの新現先取引のことを指す。しかし,ここではかつての現先取引と区別するため,新現先取引と呼んで説明する。

日本にレポ市場が創設されるとその規模は急激に拡大し,短期金融市場で最大の取引残高となった[1]。しかし,この日本特有の取引慣行は金融市場が国際化していくなかで,その特殊性が目立つようになった。具体的には,

  • 海外のレポが売買形式であるのに対し,日本は貸借形式
  • 海外のレポが債券担保であるのに対し,日本は現金担保
  • 実態として同じ目的で使われている現先市場とレポ市場が併存している

ということである。これには海外のベテラン金融マンでも混乱することがあり,日本の短期金融市場国際化の障害とさえみなされていた。

国内でも有価証券取引税が廃止されたことを受け,もういっそ海外と同じようなシステムにして,それに合わせて現先市場もレポ市場もひとつに統合してしまったらどうかという声が高まった[2]。こうして誕生したのが新現先取引である。新現先取引の特徴は以下のようなものだ。

  • 旧現先と比べて:リスクコントロール条項一括清算条項がある
  • レポと比べて:売買形式であり,海外のレポ取引と同じ仕組み
■ 新現先の利用状況
■ 新現先利用における障害
2007年6月の金融市場レポート。「新現先利用における障害」の単位は件数。
出所:日本銀行

旧現先はすべて新現先に統合されることとなった。またレポ取引についても,新現先市場(国際標準のレポ市場)へ資金がシフトしていくと期待された。ところが現実にはレポ市場がその規模を維持する一方,新現先市場がすぐに拡大していくことはなかった

日本銀行が行った現先市場・レポ市場に関する調査によれば,その理由は金融機関のシステムが対応していないからというものが最も多かった。もちろんシステムを新しくすれば新現先取引に対応することは可能だ。しかし,これだけ短期金融市場の金利が低下しているなか,わざわざ追加的なコストを支払ってまでシステムを更新しようとは考えない。ましてや従来のレポ取引でなんら問題が生じているわけではないのだから,金融機関がわざわざ新現先市場へ資金をシフトさせるインセンティブは弱かったと言わざるを得ないだろう。

こうした状況から長らく新現先取引がレポ取引にとって代わることはなかったが,2018年5月の国債決済期間短縮化[3]のタイミングでレポ取引はその大半が新現先取引へと移行された。

  1. ^2000年にコール市場残高を上回り,短期金融市場で最大の残高となった。
  2. ^1998年の金融ビッグバンの一環で現先・レポ取引の国際化がはかられた。
  3. ^国債の決済がT+1(約定日から1営業日後に国債を受け渡す)へと短縮された。

2.リスクコントロール条項など

以下では新現先取引やレポ取引にかかわるリスクコントロール条項などの用語について説明する。

一括清算条項

金融機関が行う現先取引やレポ取引は,たとえ同じ相手であろうといくつもの取引を同時に行っていることが普通である(たとえばA銀行とB証券との間に何種類ものレポ取引が存在しているようなケース)。一括清算条項が設定されていれば,取引相手が倒産した場合,複数あった取引はひとつの取引へと集約されることになる。多くの場合,これによっていくつかの債権・債務が相殺されるため,効率的にリスクを管理することができるようになる。

ヘアカット

担保の時価を割り引くこと。たとえば資金を調達する場合,100億円の債券を借りる場合,必ずしも現金の担保を100億円用意するわけではない。通常は借りる債券の時価をやや下回る現金が担保となる。たとえば時価100億円の債券に対して要求する担保資金の金額は95億円といった形になる。このときの減額率5%はヘアカット率と呼ばれる[1]

マージンコール

証券と現金の差額を調整すること。証券を借り入れたり,担保に差し出したりして取引をしていると,時間の経過とともにその証券の価格が変化していく。たとえばレポ取引で100億円の現金を担保に100億円の債券を調達してきたとする(ヘアカット率0%)。このとき債券価格が110億円に上昇すれば,現在借りている債券に対して現金担保10億円が不足していることになる。これに対して債券の貸し手はマージンコールを行使し,足りない10億円分の現金担保を差し入れるよう要求することができる[2]

リプライシング

現在の取引をいったん終了させ,証券と担保の価格差などを清算したうえで同じ条件の取引を組みなおすこと。一見マージンコールと似ているが,相手単位ではなく取引単位で組みなおせる点,双方の合意が必要である点などが異なる。

  1. ^一方,時価に対する現金の比率95%は基準担保金率とよばれる。
  2. ^レポ取引のマージンコールは各取引ごとに行うことができる。一方,新現先取引のマージンコールについては取引相手ごとに行う。同一の取引相手との間に複数の新現先取引がある場合,マージンコールで要求できる金額はそれらの取引を合算して計算した担保の不足分だけである。
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